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上野裕二郎 個展 「 Transformed Legacy 」
2024.5/18〜6/10 Kyoto Tsutaya Bookstore 5F Exhibition Space  /KYOTO

上野裕二郎、生命を描く画家

ー抽象と具象のはざまでー

​沓名美和

 

 瑞々しくほとばしる色彩。アクリルと油絵による躍動感溢れるストロークは、まるで色鮮やかな波がうねりを上げるように荒々しく、そして伸びやかだ。

 上野裕二郎が描くのは、龍や虎、鳥など、古代から東洋で描かれ続けてきた動物たちの姿だが、その表現は具象と抽象のはざまを行き来しているかのように自由自在だ。動物たちの姿は、まるで身体の構成要素が原子レベルに分解されていくかのように輪郭がほどけて抽象化されてゆくのにもかかわらず、眼差しは鋭く、深い知性をたたえて見るものに個の存在を印象付ける。そこに描かれているものを上野自身は「気」と呼ぶ。

 古来、絵画は目に見えないものを見える形にする装置であった。とりわけ農耕民族として自然と共生し、万物に神性を見出す日本的な価値観においては、四季や時間の移ろいを花鳥の姿に、嵐や雷を神の姿に、そして神の姿を動物に表すことで、見えざるものと対話をしてきたといえるだろう。上野の作品に見え隠れするこうした東洋のアニミズム的な試みは、上野自身が日本の伝統文化が息づく京都で生まれ育ち、大学時代を中国由来の文化が根付く沖縄で過ごしたことも、決して無関係ではないだろう。

 具象と抽象を自在に行き来するように、対極にあるものを織り交ぜて新たな表現に導いていくのが上野裕二郎の絵画の特徴だ。

 技法的にはアクリル画や油画に日本画らしい線の表現やたらし込みを織り交ぜ、現代芸術に北斎や岸駒、画龍を得意とした陳容など古典絵画の画題や構図を巧みに取り入れることで歴史的なダイナミズムが生じていく。そこに、動物を通して想起される野生と神性、柔と剛、古代と現代、陰と陽といった対極の要素が幾層にもレイヤーとなることで作品は解釈の多様性と奥行きをもって私たちの前に現れるのだ。本展ではこれまで上野が行ってきた古典の再解釈をあらためてテーマとして掲げ、中国の竜生九子の故事を題材に、龍の子でありながら龍になれなかった九匹の霊獣を描いた「龍生九子」連作や、江戸時代の絵師、岸駒と岸岱の虎図から着想を得た「虎の子渡し」など、龍と虎を題材とした気迫漲る大作が披露される。

 人間であれ動物であれ、この世に生まれ落ちたすべての生き物が等しくたった一つだけ持っているもの、生命。目には見えないけれど、確かにそこにある生命の拍動を、大気を震わせるエネルギー(気)を、そして生きるということの苦しみと喜び、嘆きと咆哮を上野の絵筆は描き続ける。生きとし生けるものたちの気迫に目を凝らすその姿は、アーティストというよりもむしろ、古代より神に仕えその声に耳を澄ませてきた巫(かんなぎ)のようでもある。

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